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名古屋高等裁判所 昭和53年(ネ)510号 判決

控訴人

堀江敏子

控訴人

戸崎荘六

右両名訴訟代理人

東浦菊夫

被控訴人

浅野武雄

右訴訟代理人

簑輪弘隆

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

当審において取調べた新証拠を加えてなした当裁判所の判断によるも、被控訴人の本訴請求は、原判決の認容した限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと考える。その理由は左記に付加するほか原判決理由説示と同一であるからここにこれを引用する。

一原判決一五枚目裏六行目の「存する」の下に「(なお控訴人ら保証にかかる本件土地の担保価値が本件貸付金一、六〇〇万円を優に上回つていたことは、成立に争いのない甲第一九号証と原審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)によつて明らかなところである。)」を挿入し、同一七枚目表九行目の「証拠上」とあるのを削除したうえ「原審における証人安田桂の証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)により」を加入する。

二控訴人らは、不動産登記法第四四条所定の保証は登記義務者として登記申請をする者と登記名義人が同一であることを保証する事実行為であり、本件においてこの保証をしたのは訴外戸崎幸子、同堀江一夫の両名であり、原審で控訴人らが本件保証をしたことを自白したのは真実に反し、かつ錯誤に基づくものである旨主張する。

刑動産登記法第四四条所定の保証の内容が法律行為の処理を基本とするものでないことは控訴人ら主張のとおりである。しかしながら、同時にそれは単なる事実上の行為ではなく、登記名義人の人違いの有無、登記意思の確認、保証人の印鑑証明書、実印の用意等一連の保証事務の処理を内容とし、これらは一括して準委任事務を処理することにほかならず、この保証を約諾した者は、善良なる管理者の注意をもつて保証事務を遂行すべき義務があると同時に、右事務の処理は非代替的事務ではないから、保証人自らこれを行うほか、保証人の責任において他人をしてこれを実現させることができるこというまでもないところである。

そして、〈証拠〉によれば、控訴人らが、昭和四九年一〇月初めころ訴外武藤明からの依頼により、本件土地の登記義務者となつている訴外藤井初男が登記名義人と同一であることの保証をすることを承諾したことは明らかなところであり、右事実によれば、控訴人らの原審における自白は真実に合致し、かつ、この点に関し主張のような錯誤があつたと認むべき証拠もない。

なお付言するに、控訴人らが右保証を承諾しながら保証書作成の場所である安田司法書士事務所には、控訴人戸崎は長女の訴外幸子に、控訴人堀江は夫の訴外一夫にそれぞれ控訴人らの実印と印鑑証明書を手交して赴かせ、これらの交付をうけた右司法書士が控訴人らの実印を用いて保証書を作成したことは、引用にかかる原判決認定のとおりであるが、右訴外人らの行為は、いずれも控訴人らの前記保証事務の処理のため、控訴人らの使者ないし機関として行つた行為であり、また右司法書士の保証書作成も控訴人らの意思に基づいて、その署名押印を代行したものにほかならず、これら控訴人らの指示に基づく右訴外人らの行為のみが保証であるとすることは到底できない。かようなわけで、控訴人らの自白撤回の主張は採用するに由ない。

三次に、控訴人らは、保証者の確認について被控訴人にも過失があつた旨主張するが、本件保証をした者は控訴人らであり、訴外戸崎幸子、同堀江一夫両名でないことは前記認定のとおりであるから、右訴外人らが本件保証をしたことを前提とする控訴人らの右主張は理由がない。

よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条本文を適用して主文のとおり判決する。

(柏木賢吉 加藤義則 玉田勝也)

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